自伝的記憶

自伝的記憶

心理学者の榎本博明さんが提唱している心理アプローチとして「自己物語法」というのあります。これは自己を語ってもらうことで個人の人生に迫ろうともので、私たちが推進している“ライフヒストリー良知”のコンセプトとほぼ同じですね。

この「自己物語法」や“ライフヒストリー良知”のなかでは、「自伝的記憶」というものを重視しています。「自伝的記憶」とは自分が経験した過去の出来事に関する記憶のことで長期記憶のエピソード記憶に属するもので、単なる出来事だけでなく、その人の信念とか価値観などもこのなかに含まれます。

「自伝的記憶」を思い出させる方法として、手がかり語法、日誌法、そして語り法の3つがあります。手がかり語法とは、ひとつの言葉や単語、匂いや香り、写真や映像、音楽などによって記憶を思い出させるものです。日誌法というのは、日記や日誌で記録をつけて過去の出来事を思い出すことで正確性を検討するためには有効な方法ですね。語り法とは、これまでの人生を振り返って、自らのライフヒストリーを語ってもらう方法です。その際自由に語ってもらうこともあれば、何らかのテーマに関する内容を話してもらうこともあります。

ライフヒストリー良知では、基本的に語り法を進めていきますが、もちろん顧客に応じて手がかり法や日誌法も使いますね。

では、人が過去を振り返ったとき、どのような時期をどのくらいの量を思い出すことができるのか。これには、親近性、幼児性健忘、レミセンス・バンプの3つがあります。

親近性とは、最近の出来事ほどよく想起され、現在から時間が離れた出来事ほど思い出しにくくなるという傾向のことで、幼児期健忘とは、誕生から3~4歳までの出来事をほとんど思い出すことができない現象のことを言います。

また、レミニセンス・バンプとは、顧客が過去を振り返ったとき、10代から30代の出来事をもっともよく思い出すという現象で、高齢者はこれが顕著に現れますね。レミニセンス・バンブの原因は、10代から20代に生じる出来事は卒業、就職、結婚、出産など初めて経験すること(新奇性)、そのような出来事は他の出来事と区別しやすいこと(示差性)があります。この新奇性や示差性によって記憶が相対的に安定され長期的に保持されやすくなります。そのため繰り返し思い返される機会や想起する際の手がかりが固定され、自伝的記憶を組織化するための参照として機能するのです。

また10代から20代は個人の認知的なパフォーマンスがもっとも優れている時期でもあり(生物学的要因)、また記憶の思い出す際に関わる文化的規範や典型的なライフコース内容、決まった順序で起きることを言うライフスクリンプトの影響もあります。さらに青年期にはアイデンティティの確立される時期でもあり、この時の記憶が優先的に保持され、後で思い返されることも多くなると考えられます。そしてレミニセンス・バンプは、決して単一の要因ではなくこれらの幾つかの要因が組み合わさって生じる現象でもあるのです。